ベトナム人の学生が通っている学習塾市場について教えてください。
受験などに特化した民間の学習塾はありますが、学校の勉強を教えるような学習塾は日本と異なる点があります。また最近この点についても変化が見られるようになりました。
日本では小学生から塾に通うのは珍しくありません。一方ベトナムでも多くの子どもが小学生から塾に通っている現状です。その割には民間の学習塾があまり目立たない気がしますが、これにはどのような背景があるのでしょうか。本記事ではベトナムの学生が通う学習塾事情について解説します。
ベトナムの教育熱と私塾の存在
経済発展に伴いベトナムの教育熱はますます高まっています。もともと経済レベルから見ても識字率が高く義務教育が伝統的に広く根付いていましたが、現在はハイレベルな進学を目指して子どもたちの学習時間やそれに投資する教育費がますます増えています。
このような教育熱の高さから、ベトナムでは多くの私塾が存在します。私塾は学校の授業の補習や受験対策など、様々な目的で利用されていますが、その多くは学校の先生が副業としてやっている個人塾というのが日本との大きな違いと言えます。
学校の先生による私塾
学校の先生が行う私塾には、現職教師が副業として行っている場合や、退職した教師が自宅で教えている場合などがあります。小学校1年生からこのような私塾は存在し、放課後や休みの日などに指定の場所にて行われています。学校の先生が副業で私塾を開くなんて…と日本的な感覚なら少しネガティブな印象を持つかもしれません。ただ本来の教師としての給料がかなり安いので、何かしらの副業を行わないと生計を立てるのが難しいという事情があります。そんな中で自分が受け持っている生徒を対象とした私塾を開くことは手っ取り早い副業の一つであったことが窺えます。
学校教師による私塾経営が禁止に

上に書いたとおり、長年にわたって学校教師が副業として私塾を開くことが広く行われてきました。しかし、今年に入りその状況は大きく変化し、教師による私塾の経営は厳しく制限されるようになりました。その背景として以下のような理由が挙げられています。
教育の不平等
私塾とは言っても学校で受け持っている生徒の大半が通っている点で、学校教育の補習・延長のような役割が実質あります。しかし私塾なので当然授業料は別に納める必要があり、貧困家庭ではその捻出が難しい世帯もあります。これによりクラスの大半がその私塾に通う中、経済的理由で追加の教育を受けられないという課題が以前からありました。
学校教育の形骸化
私塾での収入を増やすために、学校の授業を疎かにする問題が指摘されています。また、私塾で教える内容を優先し、学校のカリキュラムを軽視するケースも少なくなかったようです。
教師の負担増加
学校の授業に加え、私塾の経営も行うことから、過重な負担を抱えることになります。その結果、学校における教育の質の低下につながる可能性が指摘されています。
脱税
私塾の収入は、公式に申告されないことが多く、脱税行為が横行していたことも国として大きな問題だったようです。
またこの類の私塾に通う生徒は、そこの教師が学校で受け持っている生徒であることが大半です。その塾で学ぶことは強制ではありませんが、そこに参加しないことによる何かしらの不利益を感じている保護者もいるようです。このような背景から政府は学校教師による私塾経営を禁止し、違反者には懲戒処分などの重い罰を科すようになりました。
政策の効果と今後の課題
政府の対策により教師による私塾の経営は減少傾向にありますが、依然として隠れた形で経営する教師や、規制の緩い地域で私塾を開く教師も存在します。一方で教師が開く私塾は民間のものと比べ授業料が安価なことや、地方では生徒にとって通いやすい場所にあったということから、今回の禁止決定について追加教育を受ける機会を奪われたという声もあるそうです。
そのため、政府は公教育の質を向上させ、私塾に頼る必要のない教育システムを構築することが課題となっています。ベトナムにおける教師の私塾禁止は、教育の不平等解消や学校教育の正常化を目指した政策です。しかし、その効果はまだ限定的であり課題も多く残されています。政府は今後も効果的な対策を講じ、より公平で質の高い教育システムの構築を目指していくとしています。
またこれまでは学校教師による私塾のシェア率が高かったので、民間の学習塾参入はハードルが高いものでしたが、もしかしたらこれを機会に学生向けの学習塾市場が盛んになるかもしれません。