ベトナムは徴兵制度があり男性全員に兵役義務があると聞いています。しかし行ってない人も周りにいるんですが、実際のところはどうなんでしょうか?
法令上の規定と実情の両方を知っておくと理解しやすいと思います。
日本は徴兵制がなくイメージが沸きにくいこの制度。法令上の規定だけを理解しても実情と乖離している部分があり疑問を抱く人も少なくありません。またインターネットで「ベトナム 徴兵」などで検索すると日本語の記事がたくさんヒットしますが、法令の紹介のみになっているのがほとんどでしたので、今回はその実情に焦点を当てながら解説していきます。
【まずはおさらい】ベトナムで徴兵対象になる条件
入隊招集規定の通達148/2018/TT-BQP4条では徴兵対象の基準を大体以下のように規定しています。
1,年齢
満18歳から満25歳まで。ただし大学など高等教育機関での学習のため一時的に兵役要請を停止された男性は満27歳までが対象。
2,政治的基準
通達50/2016 / TTLT-BQP-BCAの内容を遵守し、配属地域や部隊など国防省の規定に従い決定。
3,健康基準
通達第16/2016 / TTLT-BYT-BQPの規定に従った健康状態を満たす者。薬物中毒やHIV感染者は対象外。
4,文化的基準
8年生(日本でいう中卒)以上の教育水準を受けたもの。ただし特定の地域で入隊者数が規定の数を満たさない場合は5年生(日本でいう小卒)以上の教育水準を適応する。
上記に該当する男性は徴兵の対象となり、軍から招集を受けた場合は通常2年間の訓練を受けることになります。一方女性は希望制となっており、希望した女性が防衛省に承認された場合に限り入隊が認められます。
徴兵に行ってない人がいる?
男性でも徴兵に行ってないという人は周りにたくさんいますが、上で書いた通り徴兵はベトナム人男性の義務です。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
兵役に行ったことがないという男性は大卒者によく見られますが、大学への入学や卒業などで兵役免除となる規定はありません。また在学中に1か月程度の軍事演習に参加する行事がありますが、これに参加することで免除になるというわけでもありません。在学中は招集がかからないよう申請により兵役要請の一時停止が履行されますが、卒業後は同様に召集の対象となります。ではどうして同じ大卒者でも兵役に行った人、行ってない人が存在するのでしょうか?
実際の軍人に聞いてみた
知り合いに軍の関係者がいますので聞いてみることにしました。その方は2年前に定年により退役していますが、晩年はハノイにある軍事博物館の一つを管理していて、最終階級は大佐として職務を終えています。
私「兵役に行った人と行ってない人がいるんですが?」
大佐「免除に該当しない人はほとんどが対象年齢の期間中に声がかからなかった場合だと思う。」
私「と言いますと?」
大佐「各地域でその年の徴兵が行われるが、基本的に若い人が優先的に選ばれるので、高校を卒業後に進学による免除申請をしていない人(つまり高卒者で18歳~20歳ぐらい)が第一候補になりやすい事情がある。もちろん大卒者も対象になるが、選ばれるかどうかは運の要素もあるので、規定の年齢まで選ばれない大卒者が現状ではたくさんいるということなんだろう。」
私「つまり大学卒業後に徴兵の案内が来る可能性もゼロではないということですね?」
大佐「その通り。例えばストレートに大学を卒業したら22歳。徴兵の一時停止措置を受けているので27歳までの5年間はその可能性を残すことになる。ただ先ほど言った通り、若い人を優先して選んでいるので、結果的にその年の徴兵数がその層で満たされ、大卒の人たちに案内が行きにくいということもある。そんな感じで27歳まで案内が来ずに対象者から外れていく、というのが現状だ。」
私「今後もそのようなことが続いていきそうでしょうか?」
大佐「今は大学に進む子どもも増えているし、今後少子化も進んでいくので規定の徴兵人数に若い層だけでは足りないということも考えられる。その場合は大卒の層に案内が来るケースが増えることも十分ありえるだろう。ただ既に就職しているなど収入や生活の面もあるので、学歴や年齢に応じた兵役期間の短縮や免除措置など何かしらの改正が今後ある可能性もあるんじゃないか。」
もし自社スタッフが徴兵されたら?
可能性はゼロではないということで、もし「来月から兵役に行くことになりました」というスタッフが出てきた場合、雇用状態はどのようになるのかということについて解説しておきます。
労働法30条では「労働契約の一時的停止」に関する内容が規定されており、同条1-aでは「労働者が軍事義務、自衛民兵の義務を履行する」場合に適応されるとされています。ですので双方で合意するなどでない場合は労働契約の解消にはならないので注意が必要です。因みにこの労働契約の一時的停止期間中において、使用者に賃金などを支払う義務はありません。
また兵役を終えてからですが、契約の期間が未だ満了していない場合(有期雇用のケース)は使用者はその労働者を再度受け入れなければなりません。一方契約期間が既に満了している場合は使用者は労働者を再度受け入れる義務はありません。無期雇用契約者についても同様に労働者が戻ることを希望した場合、使用者は受け入れる義務を負います。有期、無期いずれにしても兵役期間、つまり労働契約の一時的停止期間は事前にはっきりとわかっている事なので、兵役に就く前に再就業に関する意思確認をしていたほうが良いと言えるでしょう。