昇給について毎年ベトナム人スタッフから交渉を受けます。一般的にベトナム人が納得しやすい昇給率の目安などはあるのでしょうか?また昇給の見送りは人材の流出に繋がりやすいのでしょうか?
弊社の登録者に退職理由を聞くと昇給云々の理由は意外と少ないものです。ただし離職とは別の観点で従業員にとって昇給の仕組みについて理解できる環境はあったほうがいいです。
昇給は従業員にとって大きな関心をもつ事柄ですが、昇給度合いについて従業員からの交渉や主張に辟易する日本人マネージャーの話はよく聞きます。今回は人材の定着という観点からベトナム人が考える昇給について書いていきます。
昇給は長期就業のモチベーション維持になりえる?
ベトナムは物価の上昇ペースが速いので、給与が据え置きの場合は実質給与が下がっていると実感しやすくなります。ですのでこの物価上昇に合わせた昇給は最低限必要なことだと考えますが、それ以上の昇給については勤務評価などの客観的数値に沿って実施されるのが普通です。評価制度が確立されていない企業の場合、昇給における客観的根拠の提示が乏しくなりやすく従業員から不満を抱かれることもよくありますので、きちんと明示できる評価制度は整えておくべきでしょう。
また年間の勤務評価や勤続年数に応じた昇給ではなく、その評価に応じた職位昇格の昇給制を取っている企業もよく見られます。これは従業員にとって同社でどの程度働けばどのような職位に上がり、どれぐらいの給与を見込めるかを知ることができるツールになり、長期就業のシュミレーションをする際の参考にもなります。
昇給を待つぐらいなら転職する
一般的に若い方で給与面に不満がある場合は転職して給与を上げるのが普通で、毎年の昇給や昇進などを待って理想の給与に到達させるという方はほとんどいません。こういった方に対しては多少昇給幅を上げたところで定着という観点では大して効果がないと考えておいたほうがいいでしょう。また他の従業員との兼ね合いから見ても特定の人材に対して昇給幅を変更するのは相応のリスクを伴います。
一方昇給に関する評価は自分が会社からどの程度認められているかという指針になりますので、そういった意味でも重要な役割を持ちます。ベトナム人が持つ会社への不満の中で「自分の仕事が正当に評価されていない」というのは様々な就業調査で共通に見られる項目です。会社にとって自分が必要とされていると思わせることは人材の定着において非常に重要です。昇給に関する評価は単に金銭的なものではなく、従業員の自尊心を高める効果も担っていると言えます。
高い年齢層ほど賃金体系を把握したいと思っている
上に書いた通り若い層(20代)は給与に不満があれば転職できますし、若いうちに複数の会社を経験するのが普通な社会ですので、小手先の昇給云々だけで優秀な人材を引き留めるのは難しいでしょう。
一方ある程度年齢の高い層(30代後半~)になると若い時ほど転職が容易ではないことは本人も自覚していますので、一時的な給与の不満だけで転職を選択することはありません。しかし長期的に同じ会社で働いた場合、今後自分の待遇がどのようになっていくのかは誰もが知りたいと思うところで、漠然とした不安を持たせないためにも明示できる賃金体系はあったほうがいいと考えます。日系企業ではまだまだ40代や50代のベトナム人従業員がいる会社も少なく、参考モデルになる先輩がいないことから将来的な推測がしにくいという事情もあります。
またワーカー層は最低賃金に近い範囲の賃金設定をしていることが多いので、冒頭で書いた物価上昇のダメージを受けやすくなります。特にローカルの物価上昇(公共料金、燃料費、市場価格など)は日ごろ現地基準の生活をしていない外国人にとって実感しにくい分野ですので、その点についてはより注意が必要です。