不正行為により懲戒解雇を検討しているスタッフがいるのですが、実施にあたりどのような点に注意すべきでしょうか?
対象の労働者から不当解雇と言われない準備が大事となります。明らかな不正行為があったとしても、それを理由に即座に懲戒解雇を言い渡すのはリスクを伴うケースもあります。
企業側から解雇を言い渡すのは神経を使うものです。特にそれが懲戒であれば事前準備をしていない場合、労働者から思わぬ訴えを受ける可能性もあります。今回は懲戒解雇の流れと懲戒解雇を実施する留意点について解説します。
法律に基づいた解雇処分の適用
労働法第125条では解雇による規律処分形式として以下4つのケースが定められています。
1-窃盗、横領、賭博、故意に基づく傷害の惹起、麻薬使用
2-営業機密、技術機密の漏洩、知的所有権の侵害行為,、使用者の財産、利益に関して重大な損害を惹起する行為、特別に重大な損害惹起のおそれがある行為、就業規則に規定されている職場でのセクシャルハラスメント
3-規律処分中の労働者が、規律処分が解消されない期間内に再犯をした場合
4-正当な理由なく30 日間に合計5 日、又は365 日間に合計20日仕事を放棄した場合
1は私生活でも犯罪行為となり、これらが発覚した場合は解雇の対象となります。2は主に会社に対して損害を与えたケースですが、セクハラによる解雇は改正労働法に基づく比較的新しい事案です。
上記のようなケースに該当する場合は懲戒解雇の事由となりますがこれらには時効があり、違反の日から6カ月、また財務および資産に直接関連している場合や技術的秘密および企業秘密の開示に関することについての時効は違反日から12か月とされています。(労働法第123条)
懲戒解雇の流れ
労働者を懲戒するに当たり、使用者は労働法第122条に規定された以下に則って実施しなければなりません。
-労働者の過失を証明:具体的な懲戒行為を客観的なもので証明する必要がある
-労働規律処分がされる労働者が構成員である,事業所の労働者代表組織の参加
-労働者に自ら弁護し、弁護士又は労働者代表組織に依頼して弁護する権利を与える
-労働規律処分は、議事録に記載しなければならない
これらの流れを経て懲戒処分を進めていくわけですが、「病気・治療静養休暇中の者」「使用者の同意を得た休暇中の者」「逮捕,拘留中の者」「違反行為について、立証捜査権限を有する機関の結果及び結論待ちである者」「妊娠している女性労働者、妊娠休暇中、12 か月未満の子を養育する労働者」については労働規律処分を実施することができないとされています。(同法第122条)
懲戒解雇を実施するメリットは?
このように懲戒解雇を合法的に行うには少々手間がかかるものです。この手間をかけて懲戒解雇を実施するのにどのようなメリットがあるのでしょうか。企業側が多大な金銭的損額を負ったなどの理由でその賠償を対象者に求めるケースなどであればともかく、単に素行不良などの理由で懲戒解雇を実行するにはあまり手間に見合ったメリットがないようにも思われます。ただ懲戒解雇を実施した場合、そのことは通常他の労働者にも理由と共に知らされることになると思いますので、会社内での規律遵守の意識を高めさせるのに一定の効力があると言えるでしょう。
逆に懲戒扱いを受ける労働者側のデメリットとして、雇用保険に関する失業の対象にならないことや、経歴として懲戒解雇がずっと残ることから、その後の就職活動に影響が出るといったことが挙げられます。特に面接などで退職事由を聞かれた際に懲戒解雇の旨を言わなければ経歴詐称扱いになりますので、たとえその場でその事実が知られず入社できたとしても入社後にそれが発覚した場合、企業側が自由に労働契約を解消できる権利が与えられます。
懲戒は通常真面目に働いてれば縁のない罰ですが、ちょっとした気の緩みや出来心でその対象となってしまうことがあります。またその程度によっては解雇という一番重い罰則を適用されることになり、その人の一生の経歴に傷がつくことになります。このようなデメリットを社内教育の一つとして労働者に啓発することも規律遵守させる一役を担うでしょう。