販売用の小物の在庫を事務所倉庫に保管しているのですが、先日従業員による窃盗が発覚しました。再発防止のために定期的な抜き打ちの所持品検査をする旨を就業規則に定めたいと思っていますが問題ないでしょうか?
検査をする必要性、検査の手段や程度、全従業員画一的に実施され、且つ従業員の心証に配慮した形であれば認められると考えます。
労働者の所持品検査は個人のプライバシーも関わってくるため慎重に対応する必要があります。このような検査を会社として実施する旨を就業規則で定めることはできるのでしょうか?本記事では所持品検査が認められるケースを例に出しながら本件について解説していきます。
事態の背景
今回相談のあった企業では「所持品検査を不定期に実施し、従業員はこれに応じなければならない」という項目を就業規則に記載したいと考えています。こうなった背景として、同社が取り扱う医療用小物が従業員により窃盗されていたことが発覚したということがあります。この商品はサイズが小さくカバンなどに簡単に入れることができることや、業務の都合上、商品を完全に従業員の手の届かないところに保管しておくというのが難しいという事情から、牽制の意味も兼ねて抜き打ちの所持品検査の実施を就業規則に盛り込みたいと考えるようになりました。
所持品検査は可能か?
個人の所持品を検査されることに抵抗を覚える労働者は多いと思いますし、プライバシーの問題も関わってきますのでこれらを就業規則に盛り込んで実施するにはハードルが高いように感じられます。では法令上においてはどのように解釈されるのでしょうか?
就業規則に関連する規定は労働法第113条に定められていますが、今回の所持品検査に関連する項目は同条2項の「b.職場の秩序」と「đ.使用者の財産,営業機密,技術機密,知的所有権の保護」となりそうです。具体的な所持品検査云々に関する規定はありませんので、実情を鑑みながら判断してくことになりそうです。
日本の判例では・・・
ベトナムでこの手の争点が過去にあったかは定かではありませんが、日本では似たような事例の判例が出ていますのでこちらを参考にします。最判第2小昭48.3.2では従業員が就業規則に定める所持品検査に応じなかったことから懲戒処分を受けたことに対し、不当な処分であると訴えたことに対して判決が下されています。
本裁判では本件の処分は妥当であるという結論を前提に、所持品検査を就業規則に定めることについての適法性について論じています。概要としては、
・企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であること
・就業規則の条項に基づいて実施されていること
・本規定について同職場の従業員の意見を聴いて作成され、過半数以上の同意があること
・合理的理由に基づいて妥当な方法と程度で実施されていること
・職場従業員に対して画一的に実施されること
が挙げられています。ポイントとしては就業規則にあるから実施してもいい、ということでは決してなく、それをする必要性、実施方法、全従業員平等に実施される、といったところとなります。
今回相談のあったケースでは従業員による窃盗で企業が被害に遭った事実がありますので、その必要性はあると考えられます。あとは実施手段や程度、また一部の従業員に対してではなく全従業員に実施するという平等性も押さえておいた方がいいでしょう。またこういった就業規則を作成する段階で職場の従業員(代表者組織がある場合は同組織)の意見を聴いておくことも重要です。