日本とベトナムが社会保障協定の交渉を準備していると聞きましたが、同協定の内容について詳しく教えてください。
社会保障協定とは保険料の二重負担防止と年金加入期間の通算を目的としたもので、2024年時点で23か国と協定を結んでいます。
現地採用者を筆頭に日本で住民票を抜くと日本の社会保障から外れることになります。しかし老後のことを考えると医療や年金などに不安を抱えることもあるでしょう。現在ベトナムでは外国人もベトナムの社会保障に関する保険料が徴収されますが、これに100%老後を委ねるのは不安に感じる人も多いのではないでしょうか。そんな中、ベトナムで支払っている保険料が日本でも支払っているとみなされればこの社会保険料の負担についての気分も変わってくるものです。今回は社会保障協定について解説します。
社会保障協定とは
国際的な人的交流の増加に伴い、海外で就労する日本人や日本で就労する外国人は近年ますます増えています。これにより一時的に海外で働く日本人が就労先の現地国の年金制度などに二重に加入し、保険料を二重で負担すると言った「二重加入」の問題や、現地国の年金制度の加入年数が短いことにより年金受給に結びつかない問題が生じています。これらの問題を解決するために現地国での年金加入年数を相互に通算し、年金受給権を確立させる制度として社会保障協定(年金通算協定)がつくられました。
初めて協定が締結された国はドイツで、平成12年2月から現在までこの協定は続いています。現在23か国の国々と協定が結ばれており、直近ではイタリアと協定を結ぶ決定がなされ、施行の準備が行われています。アジアでは韓国と中国、フィリピンがそれぞれ締結済みで、ベトナムとタイは現在交渉準備中という状況となっています。
社会保障協定の目的
社会保障協定の目的は主に以下の2つとなっています。
適用調整(社会保険の二重負担防止)
相手国での就業が5年を超えない場合は当該期間中は相手国の法令の適用を免除し、自国の法令のみを適用する。5年を超える場合は相手国の法令のみを適用する。
年金加入期間の通算
両国間の年金制度の加入期間を通算し、年金受給のために必要な最低期間を満たしていれば、それぞれの国の制度の加入期間に応じた年金が受給できるようになる。
協定を結んでいる両国それぞれの社会保障制度の加入義務については現地採用者と出向者で以下のように区別することができます。
現地採用者:協定相手国の社会保障制度
出向者:5年以内の駐在→日本の社会保障制度 5年を超える駐在→協定相手国の社会保障制度
ただし出向者で予見できない事情により5年を超えた場合、原則は協定相手国の社会保障制度に加入する必要がありますが、両国から合意が得られた場合は日本の社会保障制度に引き続き加入することが認められます。
日越の社会保障協定交渉状況
両国それぞれの往来が盛んになると、社会保障協定締結の要望が出てくるのは容易に想像できます。2018年に在ベトナムの各日本商工会より、ベトナム政府及び在ベトナム日本国大使館宛に二国間社会保障協定締結を求める要望書が提出され、ベトナム側からも前年にベトナム首相府幹部と外国大使・各国商工会議所等との対話「行政改革評議会との対話会合」にて、当時の官房長官より日本との社会保障協定締結を要望する旨の発言がありました。
しかしそこから目立った進展は現時点で特に見られません。協定を締結するとしても両国の制度の違いや保険料の額の違いなど様々な課題があるようです。ベトナム以上に日本人が多いタイも現在交渉準備中とのことですが、こちらもまだ目立った動きが見られないのでベトナムとの締結もまだ当分先と見るべきでしょうか。ちなみに2023年12月にベトナムは韓国と社会保障協定が結ばれており、ベトナムにとって初めての社会保障協定国となりました。この協定に恩恵を受ける日本人は少なくないと思いますので、是非今後の動きに期待をしたいところです。