現地採用者の退職金事情

現地採用者が退職する際に、条件を満たしていれば退職金を支払う義務があると聞いています。この制度と実情について教えてください。

現地採用者に対しても退職金は企業が支払う義務がありますが、現時点では法令通り支払われているケースは少なそうです。

ベトナムで退職金は各企業の任意ではなく法的にその支払い額の規定が定められています。現地採用者が退職する場合も退職金を受け取れる権利があるわけですが、実際に退職金を受け取ったという現地採用者はどの程度いるのでしょうか。本記事では同制度の解説と共にベトナム国内転職経験のある一定数の現地採用者からヒアリングした内容を紹介します。

ベトナムの退職金制度とは

ベトナムの退職金制度は、主に以下の2つの要素で構成されています。

  • 退職手当(Trợ cấp thôi việc):
    • 労働者が一定期間以上勤務した後に労働契約が終了した場合に、雇用主から支払われる一時金。自己都合による退職であっても受けとれる権利がある。
  • 失業保険(Bảo hiểm thất nghiệp):
    • 労働者が失業した場合に、一定期間、失業保険基金から支払われる給付金。

退職手当(Trợ cấp thôi việc)の詳細

  • 支給条件:
    • 同雇用主で12ヶ月以上継続して勤務していること。
    • 労働契約が合法的に終了した場合(自己都合退職、定年退職、契約期間満了など)。懲戒解雇など労働者側の責による退職の場合は支給対象外となることがある。
  • 支給額:
    • 勤続1年につき、退職前の直近6ヶ月間の平均賃金の半月分。
    • 計算式:平均賃金 × 0.5ヶ月分 × 勤続年数
  • 支払い義務:
    • 原則として雇用主が支払う。
    • 失業保険に加入している期間については、通常失業保険基金から支払われる。外国人労働者の場合は通常失業保険に加入していないので雇用主が全額負担。
  • 注意点:
    • 退職手当は所得税の課税対象。
    • 支払い時期は、労働契約終了後、法令で定められた期間内に支払われる必要あり。

失業保険(Bảo hiểm thất nghiệp)の詳細

  • 加入条件:
    • ベトナムの社会保険制度に加入していること。
    • 一定期間、失業保険料を納付している必要あり。
  • 支給条件:
    • 不可抗力的な失業(雇用主の都合による解雇、リストラなど)。
    • 失業後、定められた期間内に失業保険機関に申請していること。
    • 受給機関からの指示による求職活動を行っていること。
  • 支給額と支給期間:
    • 支給額は、平均賃金の一定割合で計算。
    • 支給期間は、保険料の納付期間に応じて異なる。
  • 注意点:
    • 自己都合退職の場合は、原則失業保険の支給対象外。

実際に退職金を受け取っている現地採用者は?

ベトナムの退職手当に関する法制度は、労働者保護を目的として定められています。法律では一定の条件を満たす労働者に対して退職手当の支払いが義務付けられていますが、実際には多くの企業でこの義務が果たされていないのが現状です。これは現地採用者を雇っていないローカルのベトナム企業にも当てはまり、ベトナム人でも企業から退職金を支払われることは当たり前ではないようです。

この背景には、まず企業、労働者双方の法制度に対する不知が挙げられます。そもそも互いにその制度を認識しておらず、支給がなくても何も問題が起きないまま現在に至っているという企業も珍しくありません。

また仮にその存在を知っていたとしても、実際に支給へ至らない事情もありそうです。退職手当の支払いは企業にとっては大きな負担となりますので、労働者からの強い主張がなければ(本来はダメですが)極力触れたくないところでしょう。一方、労働者側による権利意識の低さも影響しています。多くの労働者は、自身の権利について十分に認識しておらず、退職手当の支払いを企業に求めないケースが見られます。日本人の現地採用者は法令の不知に加え、そのあたりの主張を強くしない国民性などもあることから問題として表面化しにくい背景があるように思われます。また現地採用者の平均的な勤続年数からその額がそこまで大きくないことも関係があるかもしれません。

このように現状では現地採用者に退職金が支払われているケースは多くないことが窺えますが、この制度は当然ベトナム人労働者についても当てはまります。将来的にベトナム人労働者も退職金制度を正しく認識し、社会的にも法令通り退職金を支払われることが一般的な環境になれば風向きが変わってくるかもしれません。この場合、現在退職金を支払っていない企業にとっては(本来出ていくはずであった)費用が加わることになりますので、その部分に対する想定はしておくべきかと思います。

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