労働契約に「年に1回一時帰国の航空券を支給」という福利厚生があるのですが、コロナ禍で帰国ができず今年度は使えそうにありません。この場合は次年度に繰り越すというような考え方はできるのでしょうか?
実際に使用する場合に支給されるという考え方になりますので、今年使わなかったから来年2回分といったような繰り越しはできません。
ベトナムの現地採用では福利厚生の一つとして年に1回一時帰国用の航空券を支給している企業がありますが、コロナ禍の渡航規制により1年以上帰国できていない現地採用者はたくさんいます。この場合航空券の支給を受ける権利は次年度以降に引き継がれるのでしょうか?今回は福利厚生の現物支給に関する考え方について解説します。
まずは労働契約の記載内容を確認
年に1回一時帰国の航空券を支給することになっている場合、締結している労働契約書にどのように記載されているかを確認しましょう。年度で支給を受けない場合に関する取り決めが記載されている場合は、その記載内容に則ることになります。しかし実際は今のようなコロナ禍を想定していない労働契約内容が殆どでしょうから、使用しない(できない)場合の規定がないのが普通です。そこで航空券の支給について労働契約書でよく見られる文言の例を紹介しつつ、その解釈について書いていきます。
「年に1回一時帰国用の航空券を支給」と記載
この場合は会社が航空券を手配して支給することになりますので、実際に一時帰国しないのであればその年の航空券を受ける権利は消滅します。ただし隔離やその他の費用は自費で払う前提で帰国を申し出た場合、航空券代がたとえ通常より高額であったとしても会社側は支給する義務があります。支給する航空券代に上限額が盛り込まれている場合はその額の範囲で支給する必要があります。
「年に1回一時帰国用の航空券を実費で支給」と記載
こちらは実際にかかった額(つまり一度自分で立て替えて支払った額)を後に精算となりますので、やはり実際に購入していないのであれば、その権利はその年で消滅します。本来なら帰るはずであったので、通常の航空券代にかかう費用(1000USD程度など)を現金で支給するというような話にはなりません。
一時帰国補助として~USD支給
このパターンを採用している企業は少ないですが、一時帰国にかかる現地採用者の金銭的な負担を軽減する福利厚生として設定している企業があります。この場合補助として支給されるお金の使用目的は航空券に限られていませんので解釈が難しいですが、帰国の実績がないという観点から支給を見送ることは規定に反していないと言えます。
いずれの例にしても福利厚生で「年」を単位としているものは、年度が変わると新たにリセットされると考えておくべきで、今回の結果は現地採用者にとっては残念な結論となりそうです。
会社都合により帰国できない場合はどうか
コロナ禍で渡航制限が出ていても、労働者に一時帰国する権利はもちろんあります。一時帰国中の期間に有給休暇を充てるということもできるでしょう。では企業都合(例えば現地の日本人が該当の現地採用者しかいないので帰国を認めない、など)で、一時帰国ができない場合はどのように考えればいいでしょうか。
機械的に処理をするなら労働法35条「労働者が労働契約を解約する権利」の2-a「合意に従った労働条件が保証されない」に当たるので、事前通知なしに労働契約を解消できる可能性があります。ただこのコロナ禍で労働者側もそれなりに事情を理解していますので、こういった手段に出るケースは多くないでしょう。
もちろん使用者もそういった労働者の好意(忍耐?)にただ甘えるだけでなく、何かしらの労い(具体的な特例措置など)の姿勢を見せることが今後の労使関係を良好にする上で重要な対応になってくると考えます。
コロナ禍が始まりもうすぐ2年となり、リモートワークといった就業形態や就業環境に様々な変化が起きています。これは就業規則や労働契約内容について改めて考え直す機会となっており、より厳密で内容の濃い規定を設定できる一つのチャンスと捉えることもできます。