日越の「内定」に関する違い

候補者に内定を出して入社に合意していたのですが、諸事情により取り消しをしたいと思っています。この場合何か補償をしなければならないのでしょうか?

ベトナムにおける内定は法的な拘束力をもたないので補償などは特に必要ありません。

内定取り消しに関するトラブルは求職者、採用側どちらからもよく聞かれる事項です。今回は企業側が何かしらの事情により内定を取り消しする必要が出た際の考え方について解説します。

日越における「内定」の意味合い

日本とベトナムでは内定についての法的な定義が異なります。以下にてそれぞれの内定がもつ意味合いを見ていきましょう。

日本の「内定」

日本の法律における「内定」とは労働契約の一種とされ、法的には「始期付解約権留保労働契約(1979年7月20日の判決大日本印刷事件)」と呼ばれています。一般的な内定とは内容について双方が合意した上で合意から入社日までの期間における労働契約を指しますので、合理的な理由がなければ一方的な解消をすることはできないということになります。この「始期付解約権留保労働契約」をそれぞれ分割して説明します。

「始期付」:入社日を表します。新卒学生などの場合は入社が半年後なども普通ですので、こういった将来の一定時期の入社における約束の意味合いがあります。

「解約権留保:やむを得ない事情の場合に当内定を解消する権利を持ちます。やむを得ない事情とは求職者であれば「卒業できなかった、大きな病気にかかってしまった、など」、採用側であれば「法的に解雇の妥当性がある事案」に当たります。

内定とはこれらの意味を持った労働契約となりますので、その契約に反する行いをした場合は法的措置を受けることになります。

ベトナムの「内定」

一方ベトナムの内定には求職者、採用側の双方に法的な拘束力がありません。そもそも「内定」にあたるベトナム語がありませんので、一般に日本で考えられている「内定」のような感覚はないと考えたほうがいいでしょう。ベトナムでは日本の採用通知書に当たる「Thư mờiまたはjob offer」と呼ばれる文書の提示で完結するのが普通ですし、たとえその文書内容に合意して入社を約束していたとしても法的な拘束力はありません。つまりたとえ求職者と企業側のどちらかが一方的に入社に関する約束事を破棄したとしても、現行法では違法性はないと判断されます。

またオファーレターなどで求職者に入社の合意を示すサインを求めるケースがありますが、これもサインをしたからといって法的な拘束力は発生しません。あくまでサインをした本人に入社するという自覚を持たせる程度のものと考えておいた方がいいでしょう。以上から入社日まで(厳密には本採用まで)の拒否は求職者、企業側それぞれ自己都合により自由にできるということになります。

今回はベトナムの内定には法的拘束力を持たないという結論ですが、勝手な理由で内定を取り消すような行為を肯定するものではありません。やむを得ない理由で内定を取り消すことになってしまった場合は、誠意をもって求職者に事情を説明して理解してもらうような対応を心掛けたいところです。

Facebook
Twitter
LinkedIn
Pocket
Email

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA