ベトナムの警察と公安の呼び分け？

ベトナムにいると日本にいるときより公安という言葉を使う機会が増えるかと思います。とは言っても公安と警察の区別が曖昧で何となく似たようなものと認識している人も多いでしょう。これについては日本人に限らずベトナム人も同様で、両者の違いを明確に説明できる人はあまりいません。今回はベトナムの公安と警察の違いについて解説します。

公安と警察の違いとは

日本にも公安と警察の存在がありますが、日本の公安、警察の立ち位置はベトナムのそれとは若干の違いが見られます。以下にて日越の公安、警察の定義を大まかに見ていきます。

日本の公安と警察

日本で公安というと「公安委員会」「公安調査庁」「公安警察」の３つが挙げられます。公安委員会は警察全体を管理する組織、公安調査庁は破壊活動防止法の違反団体を規制するための情報機関、公安警察は警察の中にある一組織という扱いとなります。その中で警察と公安がごっちゃになりやすい「公安警察」についてもう少し書いていきます。

警察と公安（警察）の違いですが、警察は一般に「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持にあたる組織」とされています。一方公安（警察）は警察組織の中でも主に「国家に対する反社会的活動の予防・取り締まりを行う部門」とされています。つまり公安（警察）は「警察の中にある組織で、国に対して危害を与える対象を取り締まる集団」という理解となります。

ベトナムの公安と警察

ベトナムの人民公安法によると、公安は「国家の安全、社会秩序を守り、犯罪の防止やそのための闘いについて党と国家に助言する機能を有する組織。」と定義されています。一方警察は「国内犯罪の防止、検出、撲滅を目的とし、犯罪から生じる原因と状態を検出し、法律の規定に従って法律違反者の教育、救済策を提案する組織」とされています。イメージとしては「公安」というおおもと組織の中に各警察部門があるという感じの理解でいいでしょう。

公安と警察の呼び分け

ベトナムの警察は元をたどれば公安ということになりますので、仮にすべてを「公安」と呼んでも間違いではないように思われます。しかし実際にベトナム人が話しているのを聞いていると公安（công an）と警察（cảnh sát）をそれぞれ区別して使っている傾向が見られます。具体的な違いを説明できるベトナム人はあまりいないと冒頭で書きましたが、組織名に注目して「警察（cảnh sát）」という言葉が入っていれば一般に警察（cảnh sát）と呼ばれていることが多いことが分かります。

例えば、交通違反を取り締まるのは「Công an cảnh sát giao thông」ですが、組織名に公安（công an）と警察（cảnh sát）の両方の言葉が使われていることが分かります。しかしこのケースでは「警察（cảnh sát）」の言葉が入っているので一般に公安とは言わず、警察と呼ばれています。

一方で居住証明書の発行依頼をするのは「Công an phường（xã, thị trấn）」ですが、こちらは公安（công an）の言葉のみで警察（cảnh sát）の言葉はありません。この場合は公安と呼ばれています。

これらの法則を理解するとベトナム人が日常の中で公安と警察をどのように使い分けているかが分かってきます。以下の組織は警察（cảnh sát）の言葉が入っていますので、和訳される場合も基本的に全て「警察」と訳されます。

• Công an cảnh sát hình sự.（刑事警察）
• Công an cảnh sát phòng chống tội phạm ma túy.（麻薬犯罪防止警察） 
• Công an cảnh sát kinh tế. （経済警察）
• Công an cảnh sát môi trường. （環境警察）
• Công an cảnh sát phòng cháy chữa cháy. （消防警察）

日本人が公安と警察を混同して困ることは恐らくないと思いますが、話のネタ程度に知っておいてもいいかもしれません。因みに入管職員は「Bộ công an cục Quản lý xuất nhập cảnh」なので「公安」、建物などの消防で抜き打ち検査に来るような人は「Công an cảnh sát phòng cháy chữa cháy. （消防警察）」なので「警察」という呼ばれることが多いです。