ベトナム人にとってテトは大切な期間だと思いますが、日本の一部の人のように正月の帰省を憂鬱に感じる人もいると聞きました。どういった事情で憂鬱に感じるのでしょうか?
テト期間中の出費や身内との関り、休日を自由に使えないわずらわしさなどがあります。特に最近の若者はテトに対する感覚が昔とは異なってきているようです。
ベトナム人にとってテト(旧正月)が最大のイベント事なのは今も昔も変わりませんが、そのテトに対する意識が若者を中心に変わってきているとメディアで報じられていました。今回はその変化についての紹介とそれに関する私見を書いていきます。
「テト=楽しい」とは限らない?
ベトナムの報道機関Vnexpressの調査によると、テトを恐れる若者が年々増えてきているとのことです。テトと言えば明らかに浮かれているベトナム人の姿を想像しがちですが、その陰で憂鬱な気分になる若者は少なくないようです。なぜこういったことになるのか?インタビューでは以下のような理由を挙げていました。
お金がかかりすぎる
地方から上京して都会で就職している人はテトに里帰りをすることになります。しかしこの期間の里帰りは交通機関が倍以上に跳ね上がることや、田舎の家族、親戚へのお土産、お年玉などとにかく出費が増えます。もともと日頃ギリギリのお金で生活をしている場合、テト賞与があってもそれで賄うことが難しかったり、せっかくもらった賞与を里帰りで毎年全部使ってしまうことに虚しさを感じる若者が多いようです。確かに日本でも冬のボーナスが里帰りで全部なくなるとしたら、、、気持ちは分かります。自分が出せる範囲での出費でいいのではと思いそうですが、そう一筋縄でいかないのがベトナムのテト習慣と言えるでしょう。
身内と関わるわずらわしさ
ベトナム人と言えば家族大好きのイメージがありますが、帰省となると親族などからプライベートに関する質問などが色々な方面から出るので、そこに煩わしさを感じることが多くなります。ベトナムの場合は都会と田舎でその辺りの感覚の差が大きいので、価値観の違いを感じることもよくあるそうです。代表的な例としては、適齢期でまだ結婚をしていないことに対する「結婚まだか?」や給与に関する「いくらもらってる?」などが挙げられます。
新しい娯楽が増えた
昔と比べるとベトナムも年間を通じて楽しいイベントが増えました。ハロウィーンやクリスマスなどは完全に根付いた感がありますし、若者にとってはベトナムの伝統的なイベントよりは海外から入ってきた新しいイベントのほうがスタイリッシュでクールに感じやすいようです。それほど娯楽のなかった時代はテトは最大の楽しみ事としてベトナム人にとって欠かせないものでしたが、それに代わる娯楽が増えた現代ではかつてほどテンションが上がるものでもなくなってきています。そういう意味でテトに対してドライな感覚の若者が増えているのかもしれません。
新暦と旧暦の正月を併用する案もあった
数年前ですが法律学者の間で、経済発展を遂げて国際社会との関係性が今後も重要となっていくという観点から旧正月の長期休暇は国際的な商業発展において阻害になるのではないか、という意見がありました。この考えから旧正月の休日の半分ほどを新暦の正月に充てることにより各正月4日程度の休みとしてはどうかという提案がありました。
最終的にこの案は実現に至っていませんが、メディアが国民に意見を聞いたところ、若者は賛成が多かったという結果が出ています。それほど遠方に帰省をする必要がない層では、テトそのものにそれほど長期休暇の必要性を感じておらず、2つに分けることによりむしろそれぞれの休暇を有意義に使えると考える人が多かったようです。一方田舎や年配層では反対する人が多く、たとえ経済が発展して国際的な国になっていったとしても伝統的な習慣を変えることに疑問を感じるという声が聞かれます。
ベトナムでも都会を中心に核家族化が進んており、結婚や子どもを持つことに対する価値観も少しずつ多様化が進んでいます。この辺りが今後ベトナム人の家族観にどのような変化をもたらすか興味深いところでありますが、家族観のほかに同族意識についての変化もテトに対する考え方に少なからず影響を与えるように思われます。